SAP S/4HANA Cloud 導入手法 Fit to Standard とは?(vol.58)

2022.1.4

近年、ERPシステムの導入手法として、「Fit to Standard」というキーワードをよく聞くようになりました。「SAP標準機能を使って業務を行うことでしょ?今までと変わりないじゃないか!」と感じる方も多いのではないでしょうか。筆者も長年SAPシステムの導入に携わっておりますが、御多分に洩れずそう考えておりました。
しかし「Fit to Standard」と、従来のERPシステムの導入手法である「Fit&Gap」は、似て非なるものです。導入の進め方のみならず、実現される業務システムの姿も全く違ったものになります。

そこで本ブログでは、SAPシステムの導入手法 Fit to Standardについて解説していきます。

SAP S/4HANA Cloud 導入手法 Fit to Standard とは?

Fit to Standard とは、業務をシステムに合わせることを目的とする導入手法です。また、「SAP S/4HANA Cloud」というSaaS型ERPで適用されます。SAPのベストプラクティスのシナリオに沿って標準機能ベースで業務設計を行い、短期導入を狙ったソリューションとなります。

では、Fit to Standardにおいて、どの程度標準機能を使用し、どの程度アドオンが許容されるのでしょうか?標準機能の使用率80%でしょうか?90%でしょうか?

答えは、「100%標準機能使用し、アドオンは0%」となります。

従来型導入手法Fit & Gapをご存じの場合、少しはアドオンの余地があると考えるのではないでしょうか。先日SAPユーザーとお話した際に、「なるべくFit to Standardで既存SAPを見直したい」と仰っておりました。しかし、Fit to Standardの辞書に「なるべく」という文字はありません。「90%標準機能、10%アドオン」では、Fit & Gapを選択したことになります。

Fit to Standardは、「SAP S/4HANA Cloud」というSaaS型ERPで適用される導入手法であると前述しました。「SAP S/4HANA Cloud」では、Fit to Standardのコンセプトが徹底されており、アドオンが一切作れない仕組みとなっております。
(実は、アドオンが一切作れないことが、Fit to Standardの重要な考えです)

もちろん、従来のオンプレ版のSAP S/4HANA、プライベートクラウド版のSAP S/4HANA Cloud Private Editionでは、アドオン開発を伴う「Fit & Gap」での導入が可能です。

Fit to StandardとFit & Gapどちらかに優劣があるというものではありません。自社のビジネスの要求を満たすことがシステムの意義ですから、そのニーズを明確にし、納得感を持って導入手法・製品を選定することが重要であると考えます。その一助となるよう、Fit to StandardとFit & Gapの違いについて、次章で解説していきます。

SAP S/4HANA Cloud 導入手法 Fit to Standard とFit&Gapとの違いは?

次に、「Fit to Standard」と「Fit & Gap」の違いについて解説していきます。
両者の特徴をまとめると、以下のようになります。

Fit to Standard Fit & Gap
1. 業務適合
  • 100%、業務をシステムに合わせる
  • アドオンは不可
  • 可能な限り、業務をシステムに合わせる
  • アドオン可
2. 導入期間
  • 短期間(数か月)
  • 長期間(1年超)
3. 製品サイクル
  • 四半期に一度最新バージョンがリリース
  • SAPがバージョンアップ実施
  • 年に一度最新バージョンがリリース
  • ユーザー側でバージョンアップを実施
4. プロジェクト推進スタイル
  • トップダウン型
  • 経営主導
  • ボトムアップ型
  • 現場優先
5. SAP対象製品
  • SAP S/4HANA Cloud
  • オンプレ版 SAP S/4HANA
  • プライベートクラウド版
    SAP S/4HANA Cloud Private Edition

 

  1. 業務適合
    Fit to StandardであってもFit & Gapであっても、根底にある考えである、「先進国の大企業のベストプラクティスであるSAP標準機能を使用し業務標準化を目指す」という考えに違いはありません。
    ただし、Fit & Gapでは、「可能な限り、業務をシステムに合わせる」ことであり、Gapに対しては、アドオンを検討していく手法となります。
    一方、Fit to Standardでは「100%、業務をシステムに合わせる」ことが求められ、アドオン検討自体が導入プロジェクトの中で実施されません。そもそも、仕組み的にアドオン開発ができないことは前述した通りです。
  2. 導入期間
    Fit & Gapでは、アドオン開発が発生します。アドオン開発は、プログラム毎に設計書を作成し、コーディングを行い、単体テストを実施する。さらに、標準機能と組み合わせて結合テストを実施するため、時間が掛かります。ボリュームが増えると、プロジェクトを長期化させる要因となり、数年かかるプロジェクトも珍しくありません。
    一方、アドオン開発を伴わない、Fit to Standardでは短期間での導入が可能となります。
  3. 製品バージョンアップサイクル
    Fit & Gapに対応する、オンプレ版 SAP S/4HANAやプライベートクラウド版 SAP S/4HANA Cloud Private Editionでは、年に一度、最新バージョンがリリースされます。バージョンアップ自体はユーザー側で実施します。
    一方、Fit to Standardに対応する、SAP S/4HANA Cloudでは、四半期に一度バージョンアップが実施されます。バージョンアップ作業はSAPが実施し、ERPとして最新の状態が保たれます。
  4. プロジェクト推進スタイル
    Fit & Gapでは、ボトムアップ型で現場ユーザーの声を聴き、現行システムの不満を取り除き、改善されたシステムを実現したいというニーズがある場合に適しています。
    一方、Fit to Standardでは、経営陣のシステムに対するニーズが明瞭であり、トップダウン型で迅速にシステムをビジネスに役立てたい場合に適した方法であると言えます。

SAP S/4HANA Cloud 導入手法 Fit to Standard のメリット

次に、SAP S/4HANA Cloud 導入手法 Fit to Standard を採用するメリットについて、解説していきます。

  1. システムを早くビジネスに活用できる
    SAP S/4HANA Cloud 導入手法 Fit to Standardを採用した場合、アドオン開発の必要がない分、短期間(数か月)での導入が可能です。
    数年掛けてシステムを構築した場合、プロジェクト当初のビジネス環境とシステムへのニーズが、数年後に同じであるとは限りません。その点、Fit to Standardは、迅速にシステムを導入でき、現時点のビジネス環境とシステムへのニーズに対応できる可能性が高いです。
  2. 常に最新のバージョンが保たれる
    従来、SAPではバージョンアップに時間が掛かる傾向がありました。バージョンアップの影響を受ける要素は、まさにアドオン部分です。バージョンアップ時にアドオンの影響調査やプログラム修正等が必要となりますが、アドオンが多いシステムであるほど時間がかかります。中にはバージョンアップを実施せず、旧バージョンのまま使用するケースも存在します。
    Fit to Standardで導入したシステムには、アドオンが存在しません。それが、SAP S/4HANA Cloudでは、四半期に一回、自動でバージョンアップされるというシナリオが成り立つ理由です。バージョンアップに伴い、最新の業務機能が追加され、常に最新の状態が保たれます。
  3. 業務標準化
    現状業務が他社から見たても標準といえるものなのか、独自商習慣は本当に必要なものなのかは、判断が難しい課題だと感じております。
    その点、Fit to Standardにより、先進国の大企業のベストプラクティスであるSAP標準機能で業務を組み立てることで、ビジネスに寄与する業務機能に絞り込むことが可能なのではないかと考えます。

まとめ

システムは、使ってはじめて価値を発揮するものであると言えます。システムを構築している最中はビジネスに貢献していない状態であり、システム稼働後に投資コストの回収がスタートします。最速でシステムの効力を発揮させたい場合には、Fit to Standardが適切であると考えます。
一方で、ボトムアップ型で作りこまれたシステムが必要な場合は、Fit & Gapが適切であると考えます。
当ブログで解説した、Fit to StandardとFit & Gapの違いをご検討いただき、貴社のシステム導入の一助となれば幸いです。

ISIDは、SAP ERP導入パートナーとして、数多くの会社様への導入を支援して参りました。SAP S/4HANAの新規導入、SAP ECC6.0からS/4HANAへのバージョンアップをご検討の際は、是非、ISIDへお声掛けください。

*本記事は、2021年12月28日時点の情報を基に作成しています。
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