SAP ERP 移行を経営に上申するための検討ポイント(vol.44)

  • 公開日:2021.09.14

SAP ERP Central Component(以下、ECC)6.0のメインストリームサポートが2027年に迫る中、今後、自社の基幹業務システムをどうすべきかは、経営における重要な意思決定課題と言えるでしょう。

まず最初に、SAP ERPユーザが検討すべきポイントは以下の選択についてです。

  1. SAP社のERP製品を継続利用する
    → どこかのタイミングでSAP S/4HANAに移行する
  2. SAP社のERP製品の利用をやめる
    → 第三者保守に移行して時間を稼ぐ、もしくは別のERPに移行する

本ブログでは、上記1. SAP社のERP製品を継続利用する ことを前提として、SAP S/4HANAへの移行を経営層に上申する際、検討しなければならないポイントについて解説します。

SAP ERP 移行を経営に上申するための検討ポイント①:いつまで使うのか?

SAP ERPを継続して利用することを選択した場合、まず考えるべきポイントは、
いつSAP S/4HANAへ移行すべきか=いつまで現用SAP ERPを使うのか です。

現用SAP ERPの保守サポートの観点から、以下の選択肢が浮かび上がってきます。

  1. メインストリームサポート期限である2027年末までにSAP S/4HANAへ移行する
  2. 追加保守料金を支払い保守サポート期間を延長し、2030年までにSAP S/4HANAへ移行する

ただし、上記1. メインストリームサポート期限である2027年末までにSAP S/4HANAへ移行 を実現するためには、2025年末までに機能拡張パッケージであるエンハンスメントパッケージ(以下、EhP)6以上が適用されていることが前提です。
EhP6未満の場合は、2025年末までにEhP6以上を適用するか、SAP S/4HANAへ移行しなければなりません。

SAP ERPは基幹業務システムであるため、保守サポートが終了後は継続利用をしないことがコーポレートガバナンスの観点からも重要となります。

ご存知の通り、SAP ERPは世界標準のERPパッケージであり、世界中の企業が使用しています。
当然、コンピュータシステムも老朽化します。そのため、時代に則した新しいアーキテクチャで構築したシステムの提供を通じて、ユーザ企業自身の変化やビジネスの変化に対応できるようにすることがパッケージベンダーとしての責務です。

SAP ECC6.0は、1992年にリリースされたSAP R/3がベースとなっています。
SAP社の最新のERPパッケージであるSAP S/4HANAは、DXなどのニーズに対応すべく、23年ぶりに抜本的に刷新された、従来の製品とは一線を画する、まったく新たなアーキテクチャをもとに構築されたERPシステムです。

現用SAP ERPの移行は、単なるサポート期限に起因したものと捉えるのではなく、「今後の自社の成長に資する基幹業務システムを構築する」という視点でご検討いただければと思います。

SAP ERP 移行を経営に上申するための検討ポイント②:どの移行方式にすべきか?

次に考えるべきポイントは、SAP S/4HANAへの移行方式についてです。
現用SAP ERPからSAP S/4HANAへの移行方式の選択肢は、大きく次の3種類です。

  1. コンバージョン(ブラウンフィールド)方式
  2. リビルド(グリーンフィールド)方式
  3. 選択データ移行方式

コンバージョン方式は、現用SAP ERPの設定/アドオン/データをそのまま移行する方式です。
一方、リビルド方式は、現行のシステムにとらわれず、ゼロベースから業務プロセスを見直し、新しいシステムとして再設計/再構築する方式です。

大きな差異として、移行後のデータの持ち方が挙げられます。
既存環境のデータを全て移行できるコンバージョンは、SAP ERPシステム稼働後の全明細データが参照可能です。
一方、新規構築のリビルドでは、残高といったごく一部のデータを移行するため、過去の明細データを利用することができません。

コンバージョン方式は、現在使用しているシステムをそのまま移行する=過年度のデータも含めてSAP S/4HANAで稼働させることができますので、時間と費用の面はリビルド方式よりも抑えることができます。
しかし、システムの機能的には現状と何も変わらないにもかかわらず相応の移行費用が発生するため、投資対効果(ROI)を上申時に如何に説明するかがポイントになってくるでしょう。

一方、リビルド方式は、SAP S/4HANAをあらためて導入し直すわけですから、従来のやり方に縛られず、最新のS/4HANAの機能を活かして業務プロセスなどの見直しを含めた対応が可能になります。
しかしその見返りとして、当初SAP ERPを導入した時の同程度の時間と費用がかかってしまうことはご理解いただけるでしょう。

また、これらの移行方式のオプションとして、特定のデータだけを選択して移行したり、複数のインスタンスを統合しながらSAP S/4HAHAへ移行したりできる「選択データ移行」という移行方式も登場しました。
SAP S/4HANAへの移行の前提となるユニコード化対応を一度のダウンタイムで実施したい、移行に伴うダウンタイムを極小化したいといったニーズにも応えらえるため、SAP S/4HANA移行の柔軟性を高めることができます。
※詳細は「SAP 選択データ移行 とは?(vol.45)」をご覧ください。

SAP ERP 移行を経営に上申するための検討ポイント③:どこまでを移行対象とすべきか?

最後に考えるべきポイントは、どこまでを移行対象とすべきかです。
SAP S/4HANAへの移行方式に関わらず、現用SAP ERPの利用状況を正しく把握することは重要です。基幹業務システムとして長期間にわたって利用されることの多いSAP ERPは、使われていないアドオンなどが数多く存在していることでしょう。
特に、コンバージョン方式による移行をご検討されている場合は、使われていないアドオンを移行するなどの無駄を排除することで、移行工数/費用/リスクの低減につながります。
そのため、まずは現用SAP ERPを棚卸するためのアセスメントを行い、実際の移行プロジェクト計画の適正化を図ることが重要となります。
経営層に上申する際は、いきなり移行プロジェクトの検討に着手するのではなく、まずはアセスメントによる現用SAP ERPの棚卸を上申し、アセスメント後に移行プロジェクトを改めて上申する2段階の検討ステップを設けることが効果的です。

アセスメントは、SAP社が提供している以下の標準ツールを使用して実施することができます。

<SAP社が提供する標準アセスメントツール>

  • Readiness Check 2.0:システム要件を精査してコンバージョンが可能であるかを判断
  • Simplification Item Check(SI-Check):ECC6.0のカスタマイズやデータの一貫性をチェック
  • ABAP Test Cockpit(ATC):アドオンの互換性を判断

一般的にはこれらのツールを使用してアセスメントを実施しますが、これらのツールだけでは統計情報を加味したプログラムの利用頻度や権限設定の確認などはできません。また、ツールごとに分析結果がバラバラにアウトプットされるため、一元的に扱いにくいという欠点があります。
加えて、事前準備や調査にSAPコンサルタントが必要不可欠であり、アセスメント項目をまとめるのに約3カ月、環境準備の期間を含めると半年近くを要することもあります。

このような課題を解決し、アセスメントを劇的に効率化できるツールとして「Panaya」があります。
SAP社が提供するアセスメントツールのみでは3カ月以上かかるアセスメント作業を、電通総研が提供するアセスメントツール「Panaya」を使用することで、最短48時間で完了させることができます。
Panayaは、SAP社が提供する標準アセスメントツールから得られる情報に加え、Panaya独自の分析項目を付与し、その結果をレポート提示します。
Panaya独自機能の中でも特に有効なの機能として、標準/アドオンプログラムの修正情報が挙げられます。単に修正箇所を特定するだけでなく、現用SAP ERPの統計情報に対して構造分析を実施することで、標準ツールだけでは知り得ないプログラムの利用頻度や権限/ロール情報の取得/分析も可能となります。
これは、ユーザ数が多い企業や長期間SAP ERPを利用されている企業には絶大な効果を誇ります。

【ご参考】電通総研のSAP S/4HANAアセスメントサービス
 https://erp.dentsusoken.com/solution/sap-s4hana-assessment

まとめ

ここまでは、SAP社のERP製品を継続利用することを前提として、SAP S/4HANAへの移行を経営層に上申する際、検討しなければならないポイントについて解説してきました。

① いつまで現用SAP ERPを使うのか?
・ メインストリームサポート期限である2027年末までにSAP S/4HANAへ移行する場合、
EhP6以上でなければならない。
・ 「今後の自社の成長に資する基幹業務システムを構築する」という視点で検討すべし。

② どの移行方式にすべきか?
・ SAP S/4HANAへの移行方式の選択肢は、現用SAP ERPの設定/アドオン/データをそのまま移行するコンバージョン方式(ブラウンフィールド)と、ゼロベースから業務プロセスを見直し、新しいシステムとして再設計/再構築するリビルド方式(グリーンフィールド)がある。
・ その他、特定のデータだけを選択して移行したり、複数のインスタンスを統合しながらSAP S/4HAHAへ移行したりできる、選択データ移行方式もある。

③ どこまでを移行対象とすべきか?
・ コンバージョン方式による移行の場合、使われていないアドオンを移行するなどの無駄を排除することで、移行工数/費用/リスクの低減につながる。
・ 経営層に上申する際は、いきなり移行プロジェクトの検討に着手するのではなく、まずはアセスメントによる現用SAP ERPの棚卸を上申し、アセスメント後に移行プロジェクトを改めて上申する2段階の検討ステップを設けることが効果的。

これらの検討結果を踏まえ、最終的なSAP S/4HANAへの移行プロジェクト計画を策定・上申を行うことになります。

移行対象となるアドオンプログラムやデータボリュームなどにより、移行プロジェクトに要する期間や工数は変動しますが、前述のアセスメントを実施することで、より正確な御見積もりが可能になるはずです。
また、アセスメントにより、データボリュームの兼ね合いから移行に伴うシステム停止時間(ダウンタイム)をより短縮化することが必要などの課題が浮き彫りになるかもしれません。
これらの制約事項を考慮し、お客さまごとの要件に適したSAP S/4HANA移行プロジェクト計画を立案する必要があります。

電通総研では、SAP移行をご検討のお客さまに向けて、「SAP S/4HANA移行トータル支援サービス」をご提供しており、お客さまのお悩みに寄り添ったサービスメニューをご用意しております。
電通総研のSAP Solution Webサイトでは、1分でわかるソリューションのコンセプト動画や事例などのダウンロード資料などをご用意しております。お気軽にお立ち寄りいただければ幸いです。

【ご参考】電通総研のSAP Solution Webサイト
 https://erp.dentsusoken.com/

また、電通総研はSAP S/4HANA移行に関するe-bookを2冊発行しています。
本ブログの内容をより詳しく解説しておりますので、お気軽にダウンロードのうえ、ご一読いただけますと幸いです。

【ご参考】電通総研のe-book:SAP S/4HANAって、正直な何ができるの?
 https://inv.dentsusoken.com/lp/ebook/sap-s4hana_2

【ご参考】電通総研のe-book:SAP S/4HANA移行って、正直どうすればいいの?
 https://inv.dentsusoken.com/lp/ebook/sap-s4hana_conversion_2