SAP S/4HANAのバージョンアップって、どうすればいいの?(vol.80)

  • 公開日:2022.08.08
SAP S/4HANAは5年おきにバージョンアップが必要!

SAP ERP Central Component (以下、ECC)6.0からの移行や新規導入により、SAP S/4HANAユーザが多くなるにつれ、「次のバージョンアップ」についてのお問い合わせをいただく機会が増えております。
そこで本ブログでは、SAP S/4HANAのバージョンアップで必要となる作業は何か、そもそも本当に5年毎の更新は必須なのか、バージョンアップの際に注意すべきことは何かを解説します

*SAP S/4HANAはオンプレミス版とクラウド版の2種類が存在しますが、本ブログではオンプレミス版を対象として記述します。

SAP S/4HANAのライフサイクル

SAP S/4HANAは2040年12月31日まで利用できることをSAP社はコミットメントしています。
*SAP Note 2900388:SAP S/4HANA maintenance commitment until 2040

SAP S/4HANA(オンプレミス)は、年に一度、新たなバージョンがリリースされ、「SAP S/4HANA 2020」→「SAP S/4HANA 2021」といったように、バージョンに応じてリリース年を示す数字が付与されます。(ちなみに、2020年までのバージョンは、1511→1610→1709→1809→1909といったように、リリース年+月のネーミングルールでした)
注意すべき点は、この毎年リリースされるSAP S/4HANA XXXXのメインストリームサポート期間は、それぞれのバージョンごとに5年間となっている*ことです。例えばSAP S/4HANA 2020の場合、2025年末までがメインストリームサポート期間となります。
SAP S/4HANA全体としては2040年まで利用することが出来ますが、個々のバージョンを考えた場合、5年毎に新しいSAP S/4HANAのバージョンにバージョンアップしていくことが求められるのです。

その他、Feature packages Stack(以下FPS)とSupport packages Stack(以下SPS)が、SAP S/4HANA XXXXの各バージョンに応じて適宜リリースされます。
SPSは機能改善やバグフィックスのためのパッチであり、FPSはそれに加えて(例えば、クラウド版で先行して実装されている)新機能が含まれています。
FPSやSPSを適用することも、広義における「SAP S/4HANAのバージョンアップ」といえますが、重要なのは「毎年リリースされるSAP S/4HANA XXXXのメインストリームサポート期間は、それぞれのバージョンごとに5年間となっている」という点です。

*2023年10月より提供されるSAP S/4HANA 2023より、2年ごとのリリースサイクルに変更される予定です。
 また、これまではメインストリームサポートの提供期間は 5 年間でしたが、SAP S/4HANA 2023からは、1つのリリースにつきメインストリームサポートの提供期間は7年間となります
 もし、オンプレミス環境でSAP S/4HANAのレガシーバージョン(SAP S/4HANA 1709、1809、1909)のいずれかを運用し、そのまま継続することを希望するお客様には、延長保守がオプションとしてご用意されております。ただし、延長保守には、それぞれのコアSAP S/4HANA保守ベースの4%の追加料金が必要になります。
(詳細はこちらをご確認ください)

SAP S/4HANAのバージョンアップに必要な作業とは?

古くからSAP ERPをご存じの方は、SAP ERPのバージョンアップとSAP S/4HANAのバージョンアップを、同等の作業レベル(工程/工数/難易度)だと勘違いしている方も多いのではないでしょうか?
実は、SAP S/4HANAのバージョンアップの方が、SAP ERPのバージョンと比べて、作業レベル(工程/工数/難易度)が高くなっています

SAP ERPのバージョンアップは、ベーシスコンサルタントによって、カーネルやSAP ERPのアプリケーションを新しいバージョンに変更するだけで主な作業は完了でした。しかし、SAP S/4HANAのバージョンアップは、ECC6.0からSAP S/4HANAへの移行方式であるコンバージョンと非常によく似た作業工程となっており、より複雑です。

コンバージョンにおいては、SIチェック(SimplificationItemCheck)と呼ばれるシステムの一貫性を確認する工程や、ATC分析(AbapTestCockpit)といったアドオンプログラムの互換チェックをおこなう必要があるのですが、SAP S/4HANAのバージョンアップにおいても、まったく同じ作業工程を辿ります。これはつまり、ベーシスコンサルタントだけの作業ではSAP S/4HANAのバージョンアップを進められないということを意味しています。
もちろん、ECC6.0からSAP S/4HANAへの移行よりも調整事項は少なくなることは確かなのですが、作業工程そのものがコンバージョンに似ているため、十分な事前準備をおこなって計画を練る必要があります。

SAP S/4HANAへ移行済みであっても、システム内に存在するアドオンプログラムがまだECC6.0を念頭に置いた作りになっている場合はリスクに成り得ます。新しいバージョンのSAP S/4HANAでは利用できなくなっているケースが存在しますし、SAP S/4HANA自体の仕様が変わっていて標準テーブルへの参照方法を変更しなくてはならないというケースもあるからです。
また、SAP S/4HANAならではの検討ポイントがあります。もし、既存の環境がSAP S/4HANAの特徴を生かしたFioriを採用している場合、バージョンアップの際に、既存のFioriに発生する影響を考慮する必要があるのです。

SAP S/4HANA や RISE with SAP って、正直何ができるの?
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SAP S/4HANAのバージョンアップを効率よく進めるには?

では、どのようにすれば、SAP S/4HANAのバージョンアップを効率的に進められるのでしょうか?
日常の運用を含めて検討をおこないたいと思います。

  1. アドオンプログラムの棚卸(再整理)
    注目すべき視点として、①利用アドオンプログラムの棚卸、②SAP S/4HANA推奨仕様への適合改善、の2点があげられます。
    開発はされたが、利用していないアドオンプログラムはないか?
    利用しているアドオンプログラムの中でも標準機能への戻しは実現できないか?
    といった視点で棚卸をおこなうことは非常に有効な手段となります。
    また、自社のアドオンプログラムがSAP S/4HANAのプラットフォームで開発されたといっても、中身のソースコードを精査するとSAP S/4HANA推奨になっていないケースが存在します。これは、開発者がSAP S/4HANAをよく理解していなかったり、開発規約が古いままであったりすることが原因です。
  2. 利用標準機能のインデックス化
    注目すべき視点として、①SAP GUIベースで利用している標準機能の棚卸、②Fioriベースで利用している標準機能の棚卸、の2点があげられます。
    SAP S/4HANAのバージョンアップには、FPSの適用が含まれます。これはつまり、拡張や改善が標準機能に対して行われているということを意味しています。特に、Fioriは日々の改善がSAP社により精力的に進められており、新しいバージョンではサポートされなくなってしまったという事象が発生する可能性があります。今まで利用出来ていた標準機能が使えなくなる(もしくは利用を継続することが推奨されない)というリスクに備える必要があります。
  3. 計画的なアセスメントの実施
    注目すべき視点として、①中長期におけるシステム更改の計画立案、②アセスメントツールの使用、の2点があげられます。
    SAP S/4HANAのバージョンアップの対象には、アプリケーションのみならず、OSとDBのEOSも視野に含める必要があります。想定よりも早いタイミングで切替が必要になってしまうことを避けるため、はじめにしっかりと計画立案しておくことが重要となります。
    また、システム全体を俯瞰した影響の判定をおこなう必要があるため、Panaya( https://erp.dentsusoken.com/solution/panaya/ )のような調査範囲の広いアセスメントツールを採用することで、安心・安全なバージョンアップを進めることができます。

まとめ

SAP S/4HANAは、20年以上のサポートが確約された非常に長いライフサイクルを持つERPソリューションとなっています。しかし、毎年リリースされるSAP S/4HANA XXXXの単位で見ると、5年間がメインストリームサポート期間となっており、5年に一度はバージョンアップをおこなう必要があります。
作業工程もコンバージョン(ECC6.0からSAP S/4HANAへの移行)と類似しているため、数日でバージョンアップが完了できるというものではありません。
そのため、日々の運用からバージョンアップを見据えた保守作業をおこなっておくことと、中長期を見通したメンテナンス計画を立案しておくことが重要となります。

弊社電通総研は、「Panaya S4 Acceralate」という、SAP S/4HANAバージョンアップ時の影響分析ツールを活用した効率的なプロジェクトの推進が可能です。
*以下URLより、「SAP S/4HANAアップグレードサービス」の概要を説明した動画をご覧いただけます。
 https://erp.dentsusoken.com/solution/s4hana-upgrade/

「SAP S/4HANA環境を構築して3年以上過ぎ、そろそろバージョンアップ対応を検討しなければならないが、いくらくらいかかるの?どの程度のプロジェクトスケジュールなの?」とお悩みの場合は、是非、電通総研へお声掛けいただけますと幸いです。
 https://erp.dentsusoken.com/inquiry/

 

※本ブログ記事は、2022年8月1日時点の情報を基に作成しています。
 (一部、2022年9月20日にJSUGより公開された情報を追記しております)
 製品・サービスに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。