SAP S/4HANA Cloud とは?(vol.57)

2021.12.20

SAP ERP Central Component ( 以下、ECC ) 6.0のメインストリームサポートが終了する“2027年問題”もあり、昨今、ECCユーザの間では「現用のECCからSAP S/4HANAへ移行するには?」といった話題で持ち切りです。SAP S/4HANA移行を検討しているECCユーザの中には、SaaS型ERPパッケージであるSAP S/4HANA Cloudの調査に乗り出しはじめた企業も少なくないのではないかと思います。

そこで本ブログでは、SAP S/4HANA Cloudについて、そもそもの母体であるSAP S/4HANAの特徴を踏まえ、エディションによる差異やソリューションの特徴を解説します。

SAP S/4HANA Cloudを知る前に ~そもそもSAP S/4HANAとは?~

SAP S/4HANA CloudはSAP S/4HANAのSaaS型ソリューションですが、そもそもの母体であるSAP S/4HANAは、従来のECCと比較してなにが新しく変わったのでしょうか?
まずは、大きな変更点を3つ解説します。

  • 変更点①:データベースが速くなった!
    似たような名前でややこしいのですが、SAP S/4HANAは、SAP HANAデータベースという、新しいデータベースを基盤としています。SAP HANAデータベースの特徴は二つあり、一つは“インメモリーデータベースである”こと、もう一つは“カラムストアデータベースである”ことです。
    インメモリーデータベースとは、データがディスクではなくメモリーに存在することを前提としており、結果として、処理速度が非常に速くなっているデータベースです。
    一方、カラムストアデータベースとは、データをカラム=列ベースで管理する方式のデータベースであり、以前は分析処理は速くともトランザクション処理(追加/削除/更新)は遅いとされてきました。しかし、SAP HANA独自のシステムにより、分析処理とトランザクション処理をともに高速化することが実現されました。つまり、カラムストアデータベースである=処理速度が速いデータベースということです。
    SAP S/4HANAの一つ目の特徴は、簡単に言ってしまえば、“データベースが速い”ということなのです。
  • 変更点②:データ構造がシンプルになった!
    ECCは長期に渡り使用され続けてきたこともあり、データベースのテーブル構造が非常に複雑になっていました。あちこちのテーブルに色々なデータが混在し、標準の処理以外にも、アドオン処理や分析処理などの際に大きなネックになっていました。
    SAP S/4HANAでは、この複雑な“データモデルを単純化”し、データの混在を極力抑えるようになりました。有名なところでは、今まで分かれていた財務会計伝票と管理会計伝票を統一したことが挙げられます。この単純化により、一つ一つの処理速度を向上させるとともに、データ量自体も圧縮できるようになりました。
    この “シンプルになった”というのが、SAP S/4HANAの二つ目の特徴です。
  • 変更点③:ユーザインターフェース(UI)が新しくなった!
    エンドユーザにとってはこれが一番重要な変更点かもしれませんが、SAP S/4HANAは、“新しいUIとしてFioriを採用“しました。
    FioriはWebブラウザのため、ユーザは自身のWebブラウザからSAP S/4HANAを操作できるようになり、専用のアプリケーションであるSAP GUIは不要になりました。
    (と言っても、実はSAP GUIはまだ使えるのですが……)
    とにかく、三つ目の特徴は、“UIが新しくなった”ということです。

まとめると、「SAP S/4HANAは、“データベースが速く”、“データ構造がシンプルな”、“UIが新しい” ERPパッケージである」と言えます。

それでは、このSAP S/4HANAのSaaS型ソリューションであるSAP S/4HANA Cloudとは、一体どのような特徴があるのでしょうか?

SAP S/4HANA Cloudとは? ~エディションによる違いを理解しよう~

SAP S/4HANA Cloudには いくつかのエディションが存在し、名前が何度も変わっています。
ここでは、現在メインとなっている二つのエディションを解説します。(2021年12月1日時点の情報です)

  1. SAP S/4HANA Cloud
  2. SAP S/4HANA Cloud,private edition

1は、以前はMTE(Multi Tenant Edition)やES(Essential edition)と呼ばれていました。現在は、「SAP S/4HANA Cloud」と言えば、狭義ではこの1を指します。
※SAPの資料上は、「SAP S/4HANA Cloud,private edition」と対比して「SAP S/4HANA Cloud,public edition」と記述されていたりもします。

2は、ほぼオンプレミスと同じ形態でSAP S/4HANA Cloudを使用できるエディションであり、後述の1. “SAP S/4HANA Cloudの特徴“が合わないが、クラウドサービスを使いたいという場合は、こちらを検討するのが良いかと思います。

※その他、「SAP S/4HANA Cloud,extended edition」というエディションも存在しますが、こちらの説明は割愛します。

<ご参考:SAP S/4HANA ラインナップ>

Cloud ERP ERP in the Cloud ERP On Premise
RISE with SAP
S/4HANA Cloud,
public edition
RISE with SAP
S/4HANA Cloud,
private edition
HANA Enterprise Cloud,
Advanced Edition
SAP S/4HANA On Premise
(Managed by customers)
導入
パターン
新規導入 新規導入
/ コンバージョン
新規導入
/ コンバージョン
新規導入
/ コンバージョン
機能
スコープ 
ERPコア領域 オンプレミスライセンスと同じくフル機能 オンプレミスライセンスと同じくフル機能 オンプレミスライセンスと同じくフル機能
カスマイズ
アドオン Business Technology
Platformによる拡張
In-Appおよび
Business Technology
Platformによる拡張
In-Appおよび
Business Technology
Platformによる拡張
In-Appおよび
Business Technology
Platformによる拡張
モディフィ
ケーション
不可 可(非推奨) 可(非推奨) 可(非推奨)
パートナー
テンプレート
不可
イノベーションサイクル 四半期ごとの
自動アップデート
(義務)
年間1回(権利)
5年に1度のバージョンアップが必須
年間1回(権利)
5年に1度のバージョンアップが必須
顧客判断で顧客が実施
(メインストリームサポートは要考慮)
ライセンス サブスクリプション サブスクリプション BYOL BYOL
インフラ 共有されたパブリック型 SAPによるプライベート型(AWS/Azure/GCP可) SAPによるプライベート型(AWS/Azure/GCP可) 任意のインフラ上で稼働
UI Fioriのみ SAP GUI + Fiori SAP GUI + Fiori SAP GUI + Fiori
導入
アプローチ
完全Fit to Standard SAP/パートナーの
導入方法論に基づく
(Activate推奨)
SAP/パートナーの
導入方法論に基づく
(Activate推奨)
SAP/パートナーの
導入方法論に基づく
(Activate推奨)
SLA基準 99.5% 99.7% 99.5% N/A

SAP S/4HANA Cloudとは? ~特徴を理解しよう~

本章では、前章の1. SAP S/4HANA Cloudの特徴を4つに絞って解説します。

特徴1:提供機能の制限

SAP S/4HANA Cloudは、使用できる機能が“ERPコア領域”に制限されています。具体的には、SAPがベストプラクティスとして用意した標準機能群(スコープアイテム)の中からいくつかを選択し、そのスコープアイテムの通りに業務をフィットさせることが必要になります。(これをFit to Standardと呼びます。)

これにより、導入企業は低コストかつ短期間でシステムを導入できるようになるのですが、逆に言うと、今までオンプレミスのSAPでやってきたようなアドオンによるシステム構築はできません。「業務にシステムを合わせる」のではなく、「システムに業務を合わせる」という方針転換が可能が必要です。

また、いわゆるパブリック型のSaaS形式なので、サーバの指定や占有はできませんし、データベースなどのミドルウェアも管理対象外です。オンプレミスであったようなSAP GUIも使えません。
すなわち、選択した標準機能群を、Webブラウザ=Fioriベースで操作するのが、基本的なSAP S/4HANA Cloudの使い方であり、それ以外は基本的にSAPにお任せ、というわけです。

なお、SAP Business Technology Platform(以下、SAP BTP)という開発プラットフォームが別途使用することができ、インターフェースなどの機能はSAP BTP上で構築可能です。

特徴2:導入方針の制限

前述したFit to Standardも導入方針の一つと言えばそうなのですが、SAP S/4HANA Cloudには他にも独自の導入方法論があります。

詳細は割愛しますが、通常のウォーターフォール開発とは異なり、SAPが独自に定義した6つのフェーズに従って検討を進め、各フェーズの完了段階でQuality Gateという確認を行い、SAPに報告を提出する必要があります。その報告がSAPの承認を受けることで次のフェーズに進めます。
(SAPの承認を得てフェーズを進めないと、いわゆる品質検証環境や本番環境が提供されないため、この導入方針にも従うことが必須です)

SAPの定義した通りに作業すればよいので容易な印象を受けるかもしれませんが、慣れるまでは違和感があるかもしれません。

特徴3:最新バージョンの提供

SAP S/4HANA Cloudの環境は、利用者の意思にかかわらず、SAPが定期的に最新バージョンにアップデートしてくれます。今までのように数年単位でバージョンアップを行う必要はありません。
(現段階では3か月に一度のアップデートがアナウンスされています。)

「そんなに頻繁にアップデートされると、影響調査やテスト対応が大変なので実施しないでほしい」という意見もあるかと思いますが、“最新機能をすぐに使える”というSaaSの利点を享受できる機会と捉えてはいかがでしょうか。

特徴4:月額利用料金でのサブスクリプション契約

SAP S/4HANA CloudはSaaS型のソリューションのため、御多分に漏れず、サブスクリプションの月額課金契約です。
ライセンスは、FUE(Full Usage Equivalent)というSAP独自のカウント方式を採用しているため、事前に詳細確認しておくことを推奨します。

まとめ ~SAP S/4HANA Cloudは結局なにがいいの?~

ここまで、SAP S/4HANA Cloudについて、前提となるSAP S/4HANAの特徴を3つ、SAP S/4HANA Cloudのエディションを2つ、そしてSAP S/4HANA Cloudの特徴を4つ、それぞれ解説しました。

もしかしたら、SAP S/4HANA Cloudの特徴4つを読んで、制約の多いSAP S/4HANA Cloudに対してネガティブな印象を持たれた方もいるかもしれません。
しかし、その制約の多さゆえに、SAP S/4HANA Cloudは、“短期間かつ低コスト”で導入が可能なのです。例えば、比較的標準化が可能そうな会計領域に絞ってSAP S/4HANA Cloudを導入してしまえば、サーバ管理もバージョンアップも考慮する必要がなく、システム保守運用の大部分をSAPが担ってくれます。そうして生まれた余力を、会社独自の強みを生かすためのシステムに注力すればよいのです。
SAP S/4HANA Cloudは、“思い通りに変更できないシステム”ではなく、“標準に合わせてしまえば後はお任せできるシステム”だと割り切ってしまえば、非常に魅力的なサービスだと言えるでしょう。次期ERPシステムの候補として、SAP S/4HANAも検討してみてはいかがでしょうか?

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